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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和55年(ネ)162号 判決

控訴人(被告) 石川県教職員組合金沢支部

被控訴人(原告) 白井辰也 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

原判決主文第二項に「松本雄次」とあるのを「松本雄治」と更正する。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

一  控訴人組合の規約が有効であり、被控訴人らの本件脱退の申出が右規約に定める要件を充足していないことについては控訴人が原審で主張したとおりであるが、仮に、右規約(控訴人組合規約第三二条)が無効であるとしても、被控訴人らの脱退申出は次の理由により権利の濫用であり効力のないものである。すなわち、控訴人らの脱退申出は控訴人組合の団結を乱し、ひいては日本教職員組合(以下、日教組という。)に結集する組合の解体を目的とした組織破壊攻撃の一手段として行なわれたものである。以下その原因・理由を明らかにする。

(一)  自民党を中心とする日教組攻撃

自由民主党は昭和三二年八月日教組を破壊し、「日本教職員団体連合」(教団連)の勢力拡張を企図して「日教組対策の具体的方針」を打出し、この方針は自民党各県連、全国の教育委員会に指示された。右方針は自民党が公的な教育行政機関を通じて日教組攻撃を強行し、以後学校管理規制の制定、勤評の全国実施、官制研修、管理体制強化、校長、教頭の管理職手当支給等の集中的な日教組攻撃となって現われてきた。

そして、昭和三五年七月自民党文教対策委員会は、更に露骨に日教組破壊をおし進めるために「日教組破壊方針」を教示するに至るのであり、右を要約すれば次のとおりである。

(1) 教職員を日教組から解放することこそ、教育の正しい発展をはかる唯一の途である。教育長にも脱退促進の決意を確立させるため、公安当局とも緊密な連絡をとり信頼できる学者、文化人を講師団として動員する。

(2) 集団脱退させる目標地域を郡市単位に設置する。

(3) 校長の中の有志、有能なる教職員を脱退工作者とし、地教委員の有志も支援する。

(4) 教組尖鋭分子を目標地域からしめ出し、活動困難な地域へ移動させる。

(5) 日教組批判、脱退状況の広報活動を活発化する。

(6) 脱退教職員の後援会を作り、脱退を促進する。

(7) 脱退の少ない県、教組活動の活発な県は、専従者規制措置を講ずる。

(8) 脱退促進資金は文教懇談会(自民党)を通じて配布する。

この指針は、国と地方の行政機構を動員し徹底した日教組攻撃をおし進めようとしたものであり、そのため特に佐賀、愛媛、香川、徳島、栃木、宮崎、長崎、岐阜などの各県で強力なる各県教組に対する組織攻撃が行なわれ、愛媛県教組、徳島県教組、栃木県教組、香川県教組では大量の組合脱退者が出るに至り、佐賀、長崎、宮崎でも一部脱退者を生む結果となつたものであり、その攻撃は今日に至るまで続けられているものである。

更には、自民党は一方においては昭和三一年以後反日教組団体の結成を工作し、右反日教組団体の活動により日教組に対する組織攻撃を意図し、また、反日教組団体の結成されない県については非組合員の会なる組織を発足させ、反日教組活動を行なわせるに至つている。

右によつて組織された反日教組団体は次のとおりである。

(1) 自由文教人連盟          昭和三一年五月結成

(2) 日本教職員団体連合(教団連)   昭和三二年三月結成

(3) 東京父母会議           昭和三二年八月結成

(4) 全国教職員団体連合(全教連)   昭和三七年二月結成

(5) 日本教師会            昭和三八年二月結成

(6) 日本教職員連合会(日教連)    昭和四一年一一月結成

(7) 日本新教職員組合連合(新教組)  昭和四三年七月結成

(8) 全国教育問題連絡協議会(全教連) 昭和五二年三月結成

右団体はいずれも自民党政府の援助のもとに反日教組活動に狂奔しており、「諸悪の根源は日教組にある」として組合員の脱退工作、スト参加者に対する脅迫、スト参加者氏名公表等不当な手段による攻撃を繰り返して今日に至つているものである。

(二)  石川県における組織攻撃

石川県においても自民党を中心とする日教組攻撃の一環として、石川県教組に結集する組合に対する組織攻撃が行なわれる結果となり、また、全国教育問題連絡会議等に加盟する父母の組織である石川県教育問題連絡協議会等によるスト参加者の氏名の公表及び日教組宣伝のビラの配布等が行なわれ、県教組に加盟しない一部の人達により非組合員の会等の名称による組合加入阻止行動、組合脱退工作等が続けられている。

とくに、石川県議会においては自民党議員により公然と日教組攻撃、反日教組発言が行なわれ、スト参加組合員に対する厳重処分の要求、組合費の一括徴収の拒否要求が繰り返されているのが現状であり、本件訴訟が提起されるのと時を同じくするように同種問題が県議会で取り上げられる等、反日教組行動が一連のつながりをもつて繰り返されていることは明らかである。

被控訴人らの本件脱退行為も右自民党及びそれに同調する反日教組団体の活動と軌を一にするものであり、組織破壊を目的とした行為そのものに外ならないものである。

(三)  被控訴人の脱退申出行為とその目的について

被控訴人らが本件脱退申し入れにつき、昭和五三年三月一二日付をもつて控訴人組合に対しなされた脱退理由は次のとおりである。すなわち、

(1) 子供達に多大な影響を与え、父母県民の不信感をつのらせるストライキを含む諸闘争に賛同できない。

(2) 正式な加入届を提出していないし、地公法による職員団体は加入脱退の自由がある。

(3) イデオロギーに偏したスケジュール闘争は容認できない。

(4) 個人の自由な考えが基本であつて、それを縛るような機関決定には従えない。

というものであり、その内容とするところは前記の自民党及びその同調者である反日教組団体の主張と全く同じものである。

さらに、市議会、県議会における自民党議員の発言及び非組合員の会の発表している「新しい教職員の皆さんへ」と題する宣伝ビラに記載されている内容とも一致しているものである。

被控訴人らは、原審の審理に引き続き非組合員の会員を法廷傍聴に動員する等右会との連絡をとり本件訴訟を遂行しているものであるうえ、ことあるごとにマスコミ等に対し控訴人を誹謗する発言をなす一方、他の組合員に対しても脱退を呼びかけ、職場内の融和を破壊し、教育の現場を混乱に陥れているものである。

従つて、かかる一連の発言や行動及びその行動の背景よりすれば、被控訴人らの本件脱退申出が単なる自由意思による組合からの個人的な脱退にとどまるものではなく、控訴人組合を組織的に破壊せんとする不当な意図に出ていることは充分証明されているところである。

二  控訴人組合は、右のような背景に基づく被控訴人らの行動に対し脱退を拒否したものであり、以上の事情よりすれば本件脱退申出が権利の濫用になることは明らかである。

(被控訴人らの主張)

一  本件規約は、職員団体の構成員の脱退の自由に対し制約を加えるものであり、公序良俗に反し許されないものであつて、そのような規約は無効である。

二(一)  被控訴人らの脱退の申し出は、「組合の解体を目的とした組織的破壊攻撃の一手段として行われたもの」ではなく、権利濫用には当らないものである。

(二)  控訴人は、「自民党を中心とする日教組攻撃」、「石川県における組織攻撃」等を主張するが、そのような攻撃の存在が明らかでないのみならず、それと被控訴人らとは何らの関係もないものである。

(三)  被控訴人らの脱退申出は、控訴人主張の自民党、反日教組団体、非組合員の会等の主張、発言などとは、全く関係はない。

被控訴人らは、控訴人主張のような控訴人組合を組織的に破壊しようとする意図も、活動もしていないものである。

よつて、控訴人の権利濫用の主張は失当である。

(証拠)〈省略〉

理由

当裁判所も原審と同じく、被控訴人らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由に説示するところと同じであるからこれを引用する。

(一)  控訴人が当審において提出、援用した前記各証拠を加えて審究するも前記認定・判断(原判決理由引用)を動かすに足りない。

(二)  控訴人は、被控訴人らの本件脱退申出は控訴人組合の団結を乱し、ひいては日本教職員組合に結集する組合の解体を目的とした組織破壊攻撃の一手段として行われたものであつて、権利の濫用に該当し、無効である旨主張する。しかしながら、本件におけるあらゆる証拠によるも、被控訴人らのなした本件脱退申出が控訴人組合の解体を目的とした組織破壊攻撃の一手段として行われたものであることを認めるに足りない。また、控訴人のその他の主張にかんがみ検討するも、右脱退申出をもつて、権利の濫用と解し、これを無効とすべき事由を見出すことができない。

控訴人の右主張は採用することができない。

よつて、右と同旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用し、なお、原判決主文第二項に「松本雄次」とあるのは「松本雄治」の誤謬であることは本件記録に照らし明白であるから、主文第三項のとおりこれを更正することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝 川端浩 松村恒)

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